こんにちは,院長の菅原です。
英語論文を掲載して以来、世界中から論文やケーススタディを書いて欲しいと連日メールがなっております。
そんな中、私のSNSでは多くの筋膜に関する相談を受けます。
その中で最近,「筋膜リリース注射」はどう思いますか?という質問を多くいただくので、それに関する回答をさせていただきます。
~筋膜の構造~
筋肉・臓器を覆う線維体で,筋膜自体は3層構造で出来ている。浅い部分(脂肪や神経,リンパなどを覆う)筋膜を『浅筋膜』,深い部分の筋膜(筋肉を覆っている部分)を『深筋膜』と呼びます。そしてこの『深筋膜』は「筋外膜」と「筋膜腱膜」という層に分けられる。そして,筋膜は全身を全身タイツの様に包み込み,骨・臓器・筋肉・靭帯・関節・神経・血管・リンパなど身体のすべての組織と結びつき身体にネットワーク網を構築し,そして身体の支持までも行う重要な組織なのです.
~筋膜の機能~
筋膜は殆どがコラーゲン(支持)線維そして,わずかなエラスチン(弾性)線維という糸状の繊維がメッシュ状になったものから出来ています。コラーゲン繊維はとても丈夫ですが伸張性はあまり無く,一方弾性繊維はゴムのように伸縮性に冨み筋肉の収縮に合わせて伸縮します。コラーゲン性線維は弾性繊維に引っ張られる形で引き伸ばされます。コラーゲン繊維は骨のように硬いため、筋膜自体が伸びたり縮んだりすることはないと言われています。
筋膜リリース注射が人体に与える影響(論文的考察)
~筋膜が身体の不調を与える原因~
それでは筋膜に問題が起こると身体の中ではどんなことが起こるのか?
先程も書きましたが,筋膜は全身タイツのように全身を包んでいます.しかし,筋膜自体は伸びたり縮んだりはあまりしないと言われています.では何が問題なのか?
それは筋膜の滑走不全(筋膜同士の滑りが悪くなる)が起こることが一番の問題とされています。
<Klein DM et al:Histlogy of the extensor retinaculum of the wrist and the ankle(J Hand Surg Am.1999)
ヒアルロン酸は深筋膜や筋外膜から多く生成されます。
<McCombe D et al:The histochemical structure of the deep fascia and its structual response to surgery(J Hand Surg Br.2001>
<Matteini P et al:Structural behavior of highly concentrated hyaluronan(Biomacromolecules.2009)
ヒアルロン酸が多くなっていくことで,筋膜の滑りが悪くなりその結果、色々な組織の機能不全が生まれ,その代償が症状として様々な部位に起こってしまいます。
そしてそんな,筋膜の滑りをよくする治療法として,最近の整形外科クリニックでは注射器を使用して生理食塩水を人体に入れ筋膜リリースをするといった手法が流行っています。
しかし、我々はその”生理食塩水を用いた注射器を使った筋膜リリース”(筋膜リリース注射)を行うことは注意が必要だと思っています。
なぜ、注意が必要かというと日本は筋膜治療に関しては発展途上国であり、まだ情報が少ないです。
そのため、筋膜リリースという言葉だけが一人歩きして,知識を持たない医師が増えていることが問題となっています。
なぜ、筋膜リリース注射には注意が必要かというと,既に30年以上前から海外では筋膜治療は知られている中で,2009年に”生理食塩水とヒアルロン酸(筋膜リリース)の関係”に関しては既に論文が出されているのです。
ココがダメ
生理食塩水をヒアルロン酸に注入すると自己結合し,より固まってしまう事が証明されている。
<Matteini P et al:Structural Behavior of highly concentrated hyaluronan(Biomacromolecles.2009)
上記の論文は12年前に海外で報告されている論文であり,安易に生理食塩水をヒアルロン酸に注入することに注意を促しています。
そのため,日本では医療機関の中でも筋膜の治療が流行りとして行われていますが,安易な筋膜リリース治療は初めは楽になったとしてもその後,症状を悪化させる恐れがあるために,施術者も患者さんもしっかりと下調べをして治療を行うことが重要です。
また,そもそもが注射針を刺すと人間はその部分を治癒させようと傷口を塞ごうとする生体反応が起こります。
そのため,筋膜が固結している部分に注射針を打つとさらに硬くなってしまうことが容易に想像がつきます。
私自身,筋膜の治療を行っていると,よく腰痛患者さんの腰部の筋膜がめちゃくちゃ硬くなっている人が発見されます。
そのかたにお話を聞くと、病院にいくたびにブロック注射を打っているとのことでした。
そのため、腰部の皮膚や脂肪も癒着してしまい。症状が悪化している方々を何人も見てきました。
~そもそも痛い場所が問題とは限らない!~
筋膜の治療の理論で大事になってくるのは,そもそもが痛い部位の筋膜癒着のせいで痛みが起こっているわけではないということです.
それはどういうことでしょう?わかりにくいと思いますのでここで実技.
試しに,「あなたのシャツの右胸の下部あたりの生地を強くまとめて,そのまま左の手を挙げてみましょう。」
そうすると,左の肩の前から横にかけて苦しくないでしょうか?
身体の中では常にこのようなことが起こっています.硬くなっている場所によって別の部分に症状を感じているのです。
そして,この筋膜の歪みが起きてしまう原因は,同じ姿勢を絶えずとっていても,また過去の捻挫などの怪我でも,手術の傷跡などが原因でも起こってしまいます.
足の怪我でも首や肩に影響を起こします。
試しに全身タイツを着て足首をガムテープで固定してみましょう。腕が挙げづらくなるはずです。
それがそもそもの筋膜の構造であり,正しい筋膜の治療法であります。
筋膜って不思議ですよね!
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